Tomohiko Sugino

Switch


for Fl. Cl. Vc. (2021)

私は難聴だ。普段は補聴器をつけている。
難聴というものは音の強さや可聴域が悪化しているのみだととらわれがちであるが、問題は単純ではない。私の場合音の強さ、可聴域はおおよそ半分の狭さになり、エアコンの機械音などの小さな音は聞こえなくなる。音の方向性は曖昧になり、シラブルの組み合わせにより聞こえ難い音が存在する。またそれらが互いに影響し合い、音に歪みやくぐもりを与える。私の聴こえる音はいわばエフェクターで変調された音なのだ。

本作では補聴器の着脱の際に生じる音の切り替わりを曲にしている。聴覚の違いから窺えられる「音の多様性」について考えるきっかけ作りになれば幸いである。

初演:2021年 第54回 愛知県立芸術大学定期演奏会
Fl. 西浦千尋 Cl.滑川敬一 Vc.稲田悠佑