Tomohiko Sugino

2023/12/31

「新しい耳」「新しい聴こえ」について。

ふと思い立って、AMBIENT京都を見に行った。当初の予定では、25日には出国しフィンランドにいる予定であったが、なかなかビザが降りないため、僕は時間をもてあましていた。このAMBIENT京都は、右耳の補聴器が壊れてから行く最初の音を伴う展示であった。左耳の補聴器はつけて行った。

 左右の「聴こえ」の差は、これまで感じることができなかった面白さがあった。特に、京都新聞ビル地下1階で行われた、「坂本龍一+高谷史郎《async – immersion 2023》」において数々の発見があった。

 今回の展示でとった音の聴取法は、

①右耳で音を聴取(左耳の補聴器電源はodf)

②左耳で補聴器をつけた上で音を聴取

③左耳補聴器の電源をオフにして、右耳で再確認

④左の補聴器をオンにして比較

と、かなり面倒な手順をふんだ。

 ただし、音楽は時間芸術なので、常に変化し続ける。そのため、右で再確認する際に、必ずしも左で聞いた音と全く同じ音が鳴っているわけではない。だから、音を確認する際は前と同じ音が鳴っていると思いつつ聴いた。本当は音が鳴ってない場合があるということも考え得る。それを理解した上で比較の検証を行ったことを念頭においていただきたい。

 まず僕の聴力は、周波帯域により聴こえる音の大きさが異なる。(詳しくはこちらのページへ)恐らく今後の音の聴取においてはこの辺りがカギになりそうだと感じた。この周波帯域による聴こえの変化の影響は大きく分けて3つあった。


1 音の出だし(アタック)の音と、最後の減衰(リリース)する音が聴こえにくい。

2 ディレイやリバーブなどを代表とする、音に対するエフェクトが聴こえにくいことがある。

3 高音が聞こえにくく、高い音であればあるほど、音量が大きくても聴こえにくかったり、聴こえなかったりする。

 その中でも、1と2に関しては、聴こえにくい周波帯域の音量が小さいために起こる現象だと考えられる。特に驚いたのは、リバーブの最後の方の音が左右で異なることだ。これによって、補聴器をしていない右の耳はよりデッドな(音が響きにくい)空間になった。そして、左右で響き方が異なると思いのほか、気持ちが悪い。

 また、両耳の聴こえを比較する際に面白い現象も起きた。両方から音が聴こえているはずなのに、左の音量が大きいためか、右耳は無音に聴こえるのだ。左右の聴こえのさが生み出す不思議は僕が思っている以上にありそうだ。

 僕は、補聴器を使用することで、ほぼ健常者として24年生きてきた。おそらく多くの人は、1~3歳頃の音の聴取の記憶はないのではないだろうか?だから、補聴器なしで音を聴くことは、ほぼ新しい聴取をしているのと変わらない。…と言うわけで、外した時の聞こえを以降の記録では「新しい耳」「新しい聴こえ」と記すことにする。